入試現国の制覇 第7回「資本主義批判②」

入試現国の制覇 第7回

忙しい高校生のためのまとめ

Q

ポストコロニアルだとかカルチュラルスタディーズだとかの前にさ、グローバリゼーションってそもそもなんスか?

A

グローバリゼーションのその前にさ、21世紀の現在の高校生はそもそも、グローバリゼーションを生み出した冷戦ってなんだか知っているのかい? さらにその前、冷戦を生み出した帝国主義は? そして帝国主義を生み出した資本主義の変遷については?

Q

ん?

A

入試現代文に書いてある内容を理解するために必要なコトは実際にはキーワード集にあるような「むずかしい概念の理解」や「思想史の勉強」であるよりは、むしろ、「おおざっぱな近代経済史の把握」であることのほうが多いんだよ。

本屋で売ってる現代文の「キーワード集」ってたいていデカルトの心身二元論だとかフーコーの権力論だとかデリダの脱構築だとか、それからバルトの作者の死だとか、そんな文学専攻の大学院生にとってすらクッソ難しい思想系の概念を、たかだか半ページくらいで説明し始めてしまうじゃないか。

実際には「現代」を解析するうえで最も大事な視点は「資本主義」なんだよ。キミら高校生が「現代文が分かるぜ、うっひょー!」という状態になるために捕まえるべきは「資本主義の奇妙さ」なんだ。ここがロドスだ。跳べ。

んでね。「資本主義の歴史」とはまさに「近代の歴史」とほぼニアリーイコールなのだから、とりあえず近代の経済史をさらりと一筆書きすれば、それでもって入試現代文の資本主義批判の骨子は透けて見えてしまうのだぜ。

Q

ふーん。どこから始めるの?

A

まずは「産業革命」だよ。

大事な点は産業で革命でもって「工場労働者という社会階層が生まれた」という点だよ。

Q

労働者という社会階層?

A

ここは根源的に大事で、入試現代文を捕まえるためのキモになるから絶対に高校生には理解していただきたい。

ひどく単純に図式化した理解として、それまでは「工場に勤めなくても自分の土地で農業をして食うことのできた農民がたくさんいた」とイメージしてほしい。

この農民たちはなかなか生きていてツラいこともあっただろうけど、とりあえずは自分の土地があって、自分で土地を耕して、そんで村の中で少数の仲間と協力しながら自給自足で生きていられたのだ、と、そうイメージしていただきたい。細かい歴史的事実としては違うけど、まずは単純化して図式的に理解してほしい。

Q

いいよ。

農民が、田舎で、土地を耕して、少ない仲間と自給自足、ね。おーけー。

A

ここにおいて質問なのだけど、この土地を耕している農民たちには「貨幣」は必要かな?

Q

あまりいらないね。使う当てがなさそう。だって食べるものは耕してるし。

A

そうだね。

実際には貨幣は必要だったのだけど、しかし「生活のすべてを貨幣に依存しているわけではなかった」んだよ。ここがスゲー大事。スゲー大事。大事だからもう一回も言っちゃう。

「たしかに貨幣は使ったけれど、しかし生活のすべてを貨幣に依存しているわけではなかった」んだよ。スゲー大事。イザとなったら貨幣なんかなくたって飯は食える、だって自分で耕してるし、というイメージね。

Q

産業革命がおこるとどうなるの?

A

農民たちは意味不明な法律で土地を追い出されたり、または都市という空間にあこがれて吸い寄せられてきたりして、工場労働者になった。

我々の議論に限定する限り、「都市」の性質とは「「商品」で埋め尽くされた空間であって、そして「商品」とは貨幣で買う以外に手に入れる手段がない」、

くわえて「工場労働者」の性質とは「自分の肉体を売る以外に貨幣を得る手段を持たない人」ということだよ。

自給自足の農民の世界が「貨幣がなくても飯が食える」という世界であったことに対して、都市の労働者の世界とは「貨幣がないと飯が買えない」という世界にいつのまにか様変わりしていて、それなのに「貨幣は雇用主から与えられる以外に得る方法がない」んだよ。ここは大事!! かつては「自分の土地を耕せば自分は食えた」のに、いまや「貨幣がないと食うことができず、そして貨幣は他人に雇われないと得ることができない」!!

ここはマルクスの議論を下敷きにしている。重要だからもう一回言っちゃう。高校生は絶対に理解してほしい。マルクスは資本論を「商品」の分析から始めているのだけど、たしかに「商品」に囲まれているという現実は、我々が抱える世界への違和感の根本を捕まえていると私は思う。

産業革命以後の世界観として

身の回りのすべてが「貨幣で買うしか手に入れる手段がない商品」になっていて、身の回りが「商品」だけで埋め尽くされている、結果、人々の命は貨幣に依存せざるを得なくなる、だのに、貨幣を得るには資本家に雇ってもらうしかない、つまり生殺与奪を他人に握られてしまった、というイメージだよ。

そんな労働者( =無産階級 = プロレタリアート )が巨大な社会階層として発生したんだよ。これが我々の議論に限定する限りにおける、産業革命の意義だね。この状況は現代まで続いているよ、キミら高校生のほとんどは、親が資産家だからボクは寝てても生きていけるヨ、というワケでもない限り、みんな無産階級の労働者になるのだろ、そのために受験勉強をがんばっているのだしね。ひとたび「学生」という身分を卒業すれば、自分の生殺与奪を貨幣に握られている、という世界がキミを待つ!!

Q

おーけー。

産業革命でもっていつのまにか「自分の飯は自分の土地を耕して得る」という世界から「自分の飯は貨幣で買わなければならない、そして貨幣は資本家に雇ってもらわなければ得られない」という世界にシフトしたわけね。

A

その通り。

Q

産業革命の次は?

A

資本主義の正体がなにであるかについては誰にもよくは分かっていないのだけど、しかし、どうも金融のシステムこそがヨーロッパ流の経済の起爆剤なのではないか、というあたりについては多くの人の意見が一致しているところなんだよ。

Q

金融のシステム?

A

債券の市場と、そして銀行の信用創造だね。

債券市場は現代まで進化が続いていて、たいていの巨大バブルの原因は意味不明な進化を遂げた債券市場にあるんだよ。2008年のリーマンショックもそうだったよね。

Q

ぐばばば。それって入試の現代文に必要な知識なの?

A

ぶっちゃけると現代文の理解には金融の知識は必要ない。

高校生のキミらに覚えておいていただきたい点は、

「金融が発達すると、借金をしやすくなる」という点だけだよ。

そもそも金融とは「カネの融通」のこと、つまりは借金のことだから。

そして借金をしやすくなると「ビジネスを始めたいと思っている野心的な挑戦者がおカネを集めやすくなる」んだよ。

Q

なるほどね。ビジネスをしたい人は銀行からおカネを借りて、そんで商売を始めるわけね。

ビジネスをしたい人がおカネを集めやすくするシステムが金融、ということでオーケー?

A

オーケーだよ。

大事な点は次の点で、ヨーロッパから始まった資本主義においては「つねに第一手目は借金からゲームが始まる」という点なんだよ。

Q

どゆこと?

A

ビジネス、というか儲け話を考えついたヤツがいるとするね。

彼は次のような順番で行動する。

① 儲け話を思いつく

② 銀行でカネを借りる

③ 儲け話を実行に移す

④ 実際に儲かる

⑤ 借りた金を銀行に返す。このときに利子を上乗せして返済する

ここにおいて商売を始めたやつも儲かっているし、銀行も利子の分だけ儲かっているね。よかったね。ぴーす。

ところでさ。

銀行がおカネを貸すというけれど、銀行自体はそのおカネをどこから持ってきたの?

こたえは

「銀行もカネを預金者から借りている」だよ。

つまり銀行とは

「AさんとBさんとCさんから預金という形でそれぞれ100万ずつを借りてきて、そのABCさんから借りた合計300万のカネをDさんに貸して、そんでもってDさんからカネを返してもらう際に利子をつけて380万で返してもらい、この利子のうち70万をピンハネして自分の懐に入れ、残りの10万をABCさんに利子として渡す」という商売なんだ。ここにさらに信用創造だとか債券だとかいろいろ絡んでくるのだけど、高校生に理解してほしい基本としてはこういうことなんだ。

Q

ふーん、そんで?

A

そんで、重要な点は

「銀行も第一手目は借金だし」そして、「Dさんのビジネスも第一手目は借金だ」という点なんだよ。

だれもがゲームを始めるときの第一手目が借金なんだ。まず最初に他人からカネを借りる。借金をしないヤツはゲームのプレイヤーになれない。そして借金は未来において返さなければならないね。我々はいま、現在の自由と未来の自由とを貨幣に縛られた。

つまり西欧から生まれた資本主義とは「みんなが借金をしあうことで貨幣(というか信用)をグルグルたらい回して借金の依存関係が巨大になっていくシステム」なんだよ。「いい儲け話が在るんだよ、あとで色を付けて返すから、先にカネを貸してくれないか?」と無限にぐるぐる回し続けるシステム、それが資本主義だよ。誰かがカネを借りなくなるとこの借金の連鎖が止まってしまい経済がクラッシュする。

Q

ふーん。それって何か問題なの?

あとで儲かりつづけるなら別にいいじゃん?

さっきの話だとAさんもBさんもCさんも、銀行も、そしてDさんも全員が儲かっているよね。

A

そのとおり!

キミの言った「あとで儲かり続けるなら」という部分が大事なんだよ。

みんなが「今カネを貸したら後で儲かるに決まってる、だから何でもいいからカネを貸したい」と信じている状態が好景気、借金でカネがぐるぐる回っているね、

反対に「今カネを貸したら後で返してもらえなそう、借金を踏み倒されそうだから貸したくないな」と信じている状態が不景気だよ。借金がないのだからカネがまったく回っていないね。

好景気とか不景気っていうのは「ホモサピエンスの心理的な気分」でもって発生するという側面が強いんだ。

実際には「お前の気分なんか関係ないからとにかく全員が計画的に借金をしつづけろ!」というのが資本主義としては合理的な戦略だよね。なんなら法律にしてしまえばいいと思うよ。だけど実際にはホモサピエンスのヒステリックな集団パニックでもって「不必要に貸しすぎ」や「不必要に貸さなすぎ」という状況が起こる。過剰に好況になったり過剰に不況になったりするんだ。

Q

そんで? それって入試の現代文となんの関係があるの?

A

入試現代文に関していうと資本主義のこの性質は「植民地主義」と強い相関にあるんだよ。ほらポストコロニアルに近づいてきた。

Q

ここで植民地主義?

A

西欧流の資本主義はゲームの第一手目が必ず借金だったね?

「いい儲け話があるんだよ、だから、いま、カネを貸してくれないか?」と最初に他人に借金をしたがる人間が必要なんだ。こいつはただの詐欺師でなくて本当に儲け話をもっていて信用できるヤツじゃないと困る。

そして資本主義は借金をぐるぐる回すシステムなのだけど、借金は返すときには利子をつけないといけないね、つまり100万を借りたら130万を返さくちゃいけないんだよ、利子をつけるということは、利子の分だけ世の中に回るカネが増えるのだから、つねに経済規模 (世の中に出回る「商品」の量) も成長し続けないといけないね、なぜって実際に経済規模 (世の中に出回る「商品」の量) が増加しないままに貨幣の流通量だけが増えてしまったら、貨幣の信用が失墜して壊滅的なインフレになってしまうじゃないか。信用の連鎖のクラッシュだ。

つまり西欧流の資本主義とは「かならず第一手目が借金から始まって、借金には利子をつけなくてはけないので、よって、つねに経済規模が成長し続けていないと崩壊する」というシステムなんだよ。「ぜったいに儲かるから! 損はさせませんよ!」ととりあえず無責任に叫んでからカネを借りてきて、見切り発車で自転車操業しているシステムなんだ。

大事な点は「つねに成長し続けていないと信用の連鎖が崩壊する」という根本的な性質だよ。

Q

植民地主義はいつ出てくるの?

A

ここで植民地主義が出てくる。

質問なんだけど「ずっと経済成長し続ける」、つまり「未来において常に今より儲かりつづける」なんて、そもそも可能なのだろうか? どこか胡散臭くないか?

だって使える土地は国土でもって限界があって、使える資源にも国土でもって限界があって、使える労働者の数は自国の人口でもって限界があって、そして売ることのできる食品やら商品の量だって自国の国民の人口でもって限界があるよね。どこかで成長は頭打ちになるんじゃないのかな? つまり国土と人口に強烈に制限がかけられているのだから、かりに頭打ちにならないにしても、いつかは必ず成長は鈍るのじゃないかな?

経済が成長を続けるためにはつねに「未開のフロンティア」が必要なのだけど、自分の国の中だけだと、そのうちフロンティアは使い尽くしてしまうね。

あぁ、どこかにないものかなぁ、「絶対に儲かるうまい話」、この「絶対に儲かるうまい話」の概略はこうだよ、「ほとんど無料で働いてくれる奴隷みたいな労働者」が手に入って、そして「無料で奪って勝手に使っていい資源と土地」を手に入れることができて、そして「我々の作った工業製品をほとんど無条件で無限に売りつけることができる市場」が手に入るんだ、そんな「無料で働く奴隷のような労働力」「無料で奪っていい土地と資源」そして「工業製品を売りつけることができる市場」が欲しいなぁ、そしたら「絶対に儲かるうまい話」なのになぁ、ないかなぁ、そしたら常に経済成長し続けることができるのに、むしろ無いと困っちゃう、だって成長し続けないと資本主義はクラッシュしてしまうから、

そんな風にして資本主義は植民地を必要としたんだよ。

植民地を求める拡張主義は経済の面からも必要とされたし、そして同時に、第四回であつかったナショナリズムにおいても植民地主義は肯定された。

人々は「民族=国家=言語」というナショナリズムの世界観を信仰していたので、自分の国家が植民地を増やすことは自分がエラくなって大きくなったことと同義にように感じたのだった。 (イチローは凄い、イチローは日本人だ、だから日本人の俺もすごい、というあの議論の復習だよ) そしてライバルの国より植民地が少ないことを「面子をつぶされて負けている」ように感じた。それで植民地競争は加速した。

近代においては「ナショナリズム」、「資本主義」、そして「植民地主義」の三つは不可分の三位一体であって、この三位一体を「帝国主義」と呼ぶ。この三位一体の議論は入試現代文においてはすごく重要だから覚えておいてね。

Q

ふーん。

まずは産業革命で「商品に囲まれて貨幣に生殺与奪を握られた労働者階級が生まれる」。

つぎに「資本主義は経済成長し続けないと破綻するので、ナショナリズムと結びついて帝国主義に化けた」ってことね。

つぎは?

A

二度の世界大戦という大失敗でもって「帝国主義はうまいやり方じゃない」という見解はイヤがおうにも人類に共有されたんだよ。

しかし「帝国主義のどこがまずかったのか」という点においては人類の中でも見解が分かれたのだった。

一部の人々は「帝国」という政治のシステムがおかしかった、と考えた。帝政やファシズムや軍部による全体主義や、なんでもいいけど、とにかく「独裁」の形式こそが究極の悪であったのだ、と彼らは強く信じた。

だから彼らはこう主張した

→「資本主義という経済システムは正しい、おかしかったのは独裁という政治のシステムのほうだ、だから民主主義を世界中で徹底すればそれでよい。資本主義はこのままでよい。それが証拠に戦争に勝ったのはアメリカ、イギリス、フランスで、この国はみんな民主主義じゃないか、つまり先の世界大戦は、「正義の民主主義国家連合VS悪の独裁国家枢軸」という戦いだったのだ。そして正義の民主主義国家連合が勝利した、資本主義はこのままでいいのだ。」

こんな主張をした。

この水戸黄門よろしくの勧善懲悪「物語」を採用した側がいわゆる「資本主義陣営」となった。アメリカが盟主で西欧諸国と日本がくみした。

一方でこんなことを考える人々もいた。

→「いやいや、先の世界大戦の根本の原因は「正義の民主主義国家VS悪の独裁国家」などという政治システムの争いではなくて、誰がどう見ても「植民地主義」の失敗、つまりは資本主義の失敗だろ。ドイツ、イタリア、日本が植民地侵略というむちゃくちゃな行動に出た理由は明らかに「世界を襲う大不況の中でアメリカ、イギリス、フランスのブロック経済からはじき出されたから」だ、資本主義には好況と不況という波がある、この不況の波がマズイ、永遠に成長を続けるなんて土台無理なんだよ、我々が真に克服するべきは資本主義という経済システムだ、そのためには市場における自由競争は許されない、政府による計画経済が正解で、よって、資本主義を克服するまでは一時的には全体主義の期間があってもかまわない。」と、そんな考えをした人々がいた。

この考えを採用した側を「社会主義陣営」と呼んだ。ソ連と中国が二大巨頭で東欧諸国と中央アジア、そして第三世界のいくつかの国々が賛同した。

資本主義陣営の側は社会主義陣営のいう「資本主義を克服するためなら一時的には全体主義でも構わない」という部分に強烈に嫌悪感を示した。なぜなら「全体主義=独裁=悪の究極形態」という世界観だから。

反対に

社会主義陣営の側は資本主義のいう「資本主義は正しい」という部分に強烈な嫌悪感を示した。なぜなら彼らの信じるところでは資本主義こそが全ての悪の原因だからだ。

こうして第二次世界大戦のあとの世界は資本主義陣営と社会主義陣営とに分かれて「冷戦」に入っていったのだった。

Q

ふーん。だけど今は「社会主義陣営」ってもういないっスよね。

A

そうだね。いない。1991年にソ連が崩壊して終わった。我々の議論に限定する限り、冷戦の意義とは「第二次世界大戦のあとの世界においては物質的な贅沢さの発展は資本主義陣営の国家間だけで進んだ」という点だよ。

Q

どういうこと?

A

資本主義が正義なのか悪なのかは置いておいて、とりあえず戦争の後も、資本主義の経済はクラッシュすることなく順調に「成長しつづける」というギリギリの自転車操業を維持したんだよ。もちろん何度かの不況を経験しはしたし、そのたびに沢山の自殺者を出したけれど。

この過程で人々は資本主義が停滞せずに済む三つの要因を見つけたんだ。

①戦争が起こる

②科学的な技術革新が起こる

③ビジネスの慣習に今まで存在しなかった革新的な変化が起こる

①についてはたとえば戦後に日本が復活した理由は端的に「朝鮮戦争があったから、米軍による特需があった、ラッキー」だよね。

自分の国の近くで戦争が起こって、かつ自分の国は戦争に参加しない、という状況は経済的においしいんだよ。だけど自国の経済発展のために他国の戦争を願うなんて頭のネジが溶けて腐っているよな? 誰も戦争は望まない。

ここにおいて上のうち②と③の技術刷新をイノベーションと呼ぶことにした。イノベーションはシュンペーターという経済学者の唱えたテクニカルタームだよ。イノベーションが起こると社会構造が一変し、あたらしい雇用が創出されて、不況を回避できるようだと人々は気がついた。

そして社会主義陣営の国家においてはイノベーションが起こりづらいことにも気がついた。

どうも市場において自由な競争にさらされていて、企業にとっては生き残るのが過酷な環境、つまりストレスフルな環境にある時にイノベーションは起こりやすいようなんだ。

こうしてイノベーションと不況とを何度か経験していく中で、資本主義陣営の国家は社会主義陣営の国家に比べたときに、明らかによりモノが溢れて贅沢な社会になっていった。

ついに社会主義陣営の国々は自国の民衆の「おれたちも自由で贅沢な暮らしがしたい、モノの溢れた浪費的な生活がしたい」という不満を抑えることができなくなり、人々の不満を抑えるために言論弾圧や虐殺という手段に出てしまう、政治が行き詰まるや、崩壊、冷戦は終わった。

Q

ふーん。

① 産業革命でもって「商品」に囲まれ貨幣に生殺与奪を握られた労働者階級が生まれる

② 資本主義はナショナリズムと植民地主義とみすびつき、帝国主義にメガ進化した

③ 二度の世界大戦の失敗に懲りて帝国主義は廃棄された

④ 帝国主義の失敗点については二つの異論が提出された、ひとつは「独裁が悪の原因だった」という立場、もうひとつは「資本主義が悪の原因だった」という立場。冷戦へ突入。

⑤ 資本主義においては不況も発生するがイノベーションも高頻度で発生する、イノベーションを高い頻度で起こすことができなかった社会主義は「モノにあふれた浪費的で贅沢な社会」を作ることができず、国民の不満が爆発、冷戦に負けた。

って感じ?

次は?

A

つぎはついにグローバリゼーションだよ。

グローバリゼーションとは実際には冷戦が終わった後の世界像なんだ。

それまでは資本主義における「金融の借金の連鎖」に組み込まれていなかった旧社会主義陣営の国々の地域も、すべて資本主義に組み込まれた。これでもって世界のすべての地域が金融の「ウマい話の借金の連鎖」の網の目、つまりは「経済成長し続けない限りクラッシュする自転車操業」にとりこまれ、世界のすべてが好況と不況の運命共同体になったんだ。

これがグローバリゼーションだよ。

リーマンショックを覚えているかい? 日本の内部の「円」経済システムには特に落ち度はなかったけれど、アメリカの「ドル」システムで発生した超大規模な金融危機のあおりを喰らって、日本の「円」圏でも新卒の内定の取り消しが起こったり、不渡りで倒産が相次いだり、そして生活苦で自殺する人が増えたりしたね。世界のすべてが「ウマい話の借金の連鎖」の運命共同体になったんだ。だれかが冷静になってしまって儲け話に懐疑的になると、借金の連鎖が焦げ付く、するとドミノ倒しのようにすべてのバブルが弾けて消えて、集団のヒステリックなパニックで必要以上の大不況に陥る。不況になると失業者が発生し、失業者が増えると社会が不安定になる、自殺と犯罪が増加する。

各国の政府は経済政策において「より豊かな社会をめざしている」わけではなくて、実際には「不況が起こって失業者が大量発生する」ことを恐れているんだよ。無産階級の労働者はかつての自給自足の農民とは異なり生活のすべてを「商品」に依存している、ということは自分の命を貨幣に依存していると同値だね、だから失業とは貨幣を得る手段の喪失で、つまり死に直結だね。

現代の世界においては誰もが「よりよい暮らしがしたいから積極的に経済発展したい」とポジティブに考えているわけではなくて、むしろ反対に、「経済発展を続けていないとシステムが崩壊してしまう」というネガティブな恐怖から逃れるために、強迫的にイノベーションを推進しているだけなんだ。

発展が人類の希望だから経済発展を目指すのではなしに、はんたいに、本当はもう物質的な浪費には皆が飽きているにもかかわらず、経済発展をし続けていないとクラッシュしてしまうからこの恐怖から逃れるために「本当は誰も信じちゃいないウマい話の借金の連鎖」を拡大し続けようと不自然に足搔いている、という倒錯した世界。グローバリゼーションの歪みの本質はここにあるんだよ。

ポスコロやカルスタやジェンダー論に届かなかったけど、長くなるから次回に続く!! 次回はグローバリゼーションの続き、多国籍企業、メルトダウンする中産階級、宗教原理主義とテロリズム、ふたたび世界の中心に返り咲く中国、世界中で台頭する極右政党とポピュリズム、だとおもう、たぶん。ばいばい。

 

文責 ふじい

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